高齢者のめまい

岐阜大学医学部講師 耳鼻咽喉科学 水田啓介

 近年の高齢化社会に伴い、高齢者のめまい患者を以前よりたくさんみるようになりました。高齢のめまい患者で多くみられる病気は、内耳(耳の奥にあるバランス関係する器官)の病気ではメニエール病、良性発作性頭位性めまい症、脳の病気では脳循環障害によるめまい(椎骨脳底動脈不全症)、全身的な病気では起立性調節障害があげられます。これらの高齢者の代表的なめまいを紹介します。

 まず、第一にメニエール病です。この病気は内耳にリンパ液がたまった状態(内リンパ水腫)ができ、このために難聴や耳鳴りやめまいが起こると考えられているものです。めまいのがおこると動けないくらいに程度が強いことが多く、片耳の難聴や耳鳴がめまいの前後に悪くなることが特徴です。そして、その症状は繰り返します。

 発病の引き金として、精神的や肉体的な疲労や睡眠不足が関係していると言われています。元来、30歳から40歳代に始めて症状がでてくる人が多いのですが、近年高齢になってから発病する方が目立ちます。これは、ストレスを持つ高齢者が増加しているのが一因と考えられます。

 めまいの発作がおこったら、静かに安楽な姿勢をとらせ、刺激を与えないことが第一です。めまいを起こしている耳がわかっている場合は、その側を上にして仰臥すると楽な事が多いです。しばらく心身の安静を保つようにします。めまいを繰り返すうちに、難聴が強くなったり、耳鳴が残ったりしますので、めまいの反復を減らすことが治療の目的の1つとなりますので、耳鼻咽喉科専門医を受診して下さい。また内リンパ水腫を減らすように、塩分や水分のとりすぎに注意することを心がけることが重要です。

 良性発作性頭位性めまい症は、頭を急に動かしたり、寝たり起きあがったり、寝返るときにめまいが数秒から数十秒間続くのが特徴です。頭の外傷後に多い病気ですが、高齢者でも多くみられ、高齢者では過去に外傷がないことが多いです。内耳の前庭という場所にある耳石(頭を傾けることで耳石が動き、頭の位置がわかる装置)が、本来ある前庭から離れて、内耳の半規管(頭の回転がわかる装置)に着いたり、耳石が半規管の中を動くことでおこると言われています。多くの人は1か月以内でめまいはなくなります。

 近年は、半規管に浮遊する耳石をもとの位置にもどすという運動療法が良く効くことが知られるようになり、めまい専門医ではこの療法をまず行っています。この療法を1回おこなうことにより、8割以上の方が翌日にはめまいがなくなります。

 高齢者、なかでも特に血圧の異常があったり、動脈硬化がある人では、一度めまいが治ってもまた繰り返すことが多いです。また、高齢者でめまいが数カ月以上続く人が時にあります。これは脳の血液循環障害による類似のめまいのことがあるので要注意です。

 次いで椎骨脳底動脈不全症です。脳、特にめまいに関係する小脳や脳幹を栄養する動脈を椎骨動脈と脳底動脈といいます。この動脈の血流が悪くなることによりめまいを起こす病気です。めまいだけでなく、意識の障害や眼の症状(物が二重に見える、眼がかすむ)、顔面や手足のしびれなどが起こることがあります。頸を回したり、伸ばすことによりめまいが起こることが多いのが特徴です。脳梗塞の前兆のこともありますので、病院での精査が必要です。

 最後に起立性調節障害をあげます。いわゆる立ちくらみで、急に立ち上がったときや、長い時間立っていると眼の前が暗くなってきます。小学生高学年に多いのですが、高齢者にも多くみられます。

 元来高血圧があって、血圧降下剤を投与されている高齢者で目立ちます。高血圧のある人の脳の血流は血圧が下がると低下する傾向があり、薬で血圧を下げすぎてしまうことから、脳血流が低下してめまいがおこしやすくなります。普段の血圧をできるだけ測定し、病院で相談することが必要です。

 高齢者のめまい患者では、若い人と比べバランス機能を補う脳の働きが弱いために、めまいの治りが悪かったり、十分にバランス機能が回復しきらないことがあります。このことが生活の質を低下させることになり、問題となります。そのため、耳鼻咽喉科専門医の診察を受け、機能の低下の評価を受け、回復のための療法(リハビリテーション)の指導を受けることが必要なことがあります。

 また、高齢者では血圧の異常や心臓の病気を持つ人が多く、動脈硬化に関係する血液中のコレステロールや中性脂肪の値も若い人より高いことが高率にみられます。これらの異常は血液の循環の障害に関わり、内耳または脳への血液の流れを悪くします。内耳または脳の機能の障害を引き起こし、先に述べたような色々なタイプのめまいを引き起こしてきますので、内科的治療の重要です。

 一方、めまいの引き金としてストレスは軽視できません。ストレスは働き盛りの年齢には多いとされていますが、様々な社会的事情から高齢者の方々にも、強いストレスがかかってきていることも、高齢者のめまいの増加に関わっていると考えられます。ストレス回避も重要です。

トップベージに戻る