「耳鳴りについて」

岐阜大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科

青木 光広

本日は、耳の日のつどいにお集まりいただきありがとうございます。非常に多い症状の1つであります耳鳴りについてのお話をしたいと思います。会場の皆様やご家族のなかにも、耳鳴りで悩んでいる方も多く見えると思います。今日の話で、耳鳴りへの理解を少しでも深めてもらえればと思います。そして、最後に耳鳴りは治るのかというご質問にお答えします

Q1耳鳴りをもって見える方は多いと聞きますが、それでは、どれくらいの方が耳鳴りで悩んで見えるのでしょうか。

一過性の短い耳鳴りも入れますと、日本人の3人に1人は耳鳴りを感じるといわれています。非常に気になってしょうがないという人がその中の1割ほど、すなわち300万人くらいと言われています。さらにそのなかの1割、約30万人の方が、耳鳴りで日常生活に支障をきたしていると言われています。しかしながら、大部分の方は、耳鳴りがしていても心配ないと理解され、あまり気にせず、普通に生活されているのも事実です。

Q2耳鳴りとは? 他人にも分かる耳鳴りはあるのですか? 

耳鳴りとは、そもそも、音が発せられてないのに、音が鳴っているように聞こえる現象のことです。従って、耳鳴りは普通、自分にしかわからないものです。

しかし、中には他人にも聞こえる耳鳴りがあります。それは、首や耳に聴診器をあてると他人にも聞こえることがあります。心臓の鼓動や、血液が流れる音、筋肉が動く音などがそれにあたります。通常は周囲の雑音に消されてしまって、自覚しないのが普通ですが、人によっては、非常に静かな部屋にいたりするとシーンとかジーンいう音を自覚することがあります。

しかしながら、大半の耳鳴りは、他人には分からないものです。

Q3それでは、耳鳴りはどうしておこるのでしょうか。

        私たちは、音を耳にあつめ、外耳道、鼓膜を経て、中耳、そしてかたつむりのような形をしています内耳へと伝わり、さらにその奥の脳に送られ、音を感じます。従って、これらのどこに障害がおきても、耳鳴りがおこりえますし、また、これらの道筋に関連のある血管や筋肉あるいは骨に異常が起きても耳鳴りはおこることになります。すなわち、耳垢や中耳炎といったものでも耳鳴りは起こりうるわけです。また鼻かぜをひくと、中耳炎になることがあるように、耳と鼻は耳管という管でつながっています。従って、鼻が悪くなって、耳管の機能が障害をうけると耳鳴りがする場合があります。

 

 

Q4耳鳴りを引き起こす病気にはどんなものがありますか?

耳鳴りを引き起こす病気はたくさん見られます。

耳の病気としては、耳垢、中耳炎、鼻と耳をつなぐ耳管の狭窄などがあります。そして、お年をとられるとだんだん聞こえなくなる老人性の難聴に伴うものや、突然聞こえなくなる突発性難聴や、めまいを伴うメニエール病などに代表される内耳の病気で起こる耳鳴りが一般には多いようです。 

 また、非常にまれではありますが、生命に危険をおよぼすものに、脳出血や脳溢血の原因になる脳動脈瘤や、脳腫瘍といったものが耳鳴りを起こしていることもありますので注意は必要です。 また、最近はリストラや人間関係の複雑化などによって、非常にストレスがかかりやすい社会になってきているために、心の病いを持っている方が多くなっているようです。仮面うつ病や神経症などの疾患も多く、とく年配のかたに増加してきているという報告もあります。こうした病気からでも耳鳴りは起こります。

 そのほかには、全身疾患に伴う耳鳴りです。高血圧や貧血があると耳鳴りが起こりやすいといわれていますし、甲状腺の病気も耳鳴りの誘因になります。

 

Q5それでは、こうしたたくさんの原因がある耳鳴りに対して、病院ではどんな検査・治療をするのですか?

 耳鳴りはあくまで、自覚症状ですから、患者さんからお話を聞くこと、すなわち問診が一番重要です。 いつ始まりましたか?、内耳性の耳鳴りですと早期発見して治療をはじめたほうが治療効果は断然高いわけです。 耳鳴りは片耳あるいは両耳で鳴っていますか?両耳の耳鳴りですと一般的にはあまり重篤な疾患はすくないようです。めまい、難聴を伴いますか?めまいや難聴を伴う耳鳴りですと、先ほど述べたメニエール病や突発性難聴が疑われます。

服用している薬はありますか?痛み止めや抗生剤など、薬の副作用で耳鳴りがおきている場合があります。そうした可能性がある場合、薬の服用を中止することで、耳鳴りが消失します。高血圧や貧血などの病気にかかったことはありませんか?交通事故で頭部や頚部外傷を負った場合、数ヶ月してから、耳鳴りが表れることがあります。

 問診で、耳鳴りの原因が予測されますので、つぎに検査を行います。

まずは、耳、鼻、のどを見ます。耳垢や中耳炎がないかを調べます。次に、聴力検査で難聴の程度を把握します。自覚的に聞こえが悪くなくても、聴力検査で異常が指摘されることもよくあります。また、耳鳴り検査で、耳鳴りの気になり方、強さ、高さなどを機械を使って調べ、耳鳴りの治療効果の判定に用います。必要に応じて、レントゲン、あるいはCTやMRIで、耳の中や脳の異常の有無をチェックします。また、血液や血圧の検査などで、高血圧や貧血などがないかを調べます。心因的要素が強い場合は、心理テストを用いて、その程度を調べます。これらの検査をもとに、血圧や血液に異常があれば、内科へ、神経あるいは精神的な要素が強いようなら神経科などでの治療を勧めます。また、脳腫瘍や脳動脈瘤などが見つかれば脳神経外科にて治療が必要になります。

Q6耳鳴りははたして治るのですか?

先ほども述べましたように、高血圧や貧血などの全身疾患がある場合はそれを取りのぞくことにより、耳鳴りが減少することもあります。 しかし、その成因や原因が不明確な耳鳴りですから、治るものもあれば、治りにくいものもあるのが事実です。

 外耳や中耳に異常があるもの、すなわち、耳垢や中耳炎に伴う耳鳴りはそれを直すことにより、完全に耳鳴りを消失させることも可能です。中耳炎は薬で治るものもありますが、手術が必要となる場合もあります。

 メニエール病や突発性難聴などの内耳に原因があるものは、発症早期に精密検査をして、治療を開始することが大切です。タイミングさえ、はずさなければ、十分に耳鳴りを治すことが可能です。

原因がある程度、はっきりしているものは、治療も確立して、治る可能性も高いのですが、原因が明らかでないもの、あるいは慢性化してしまったものについては、その治療は確立されたものはなく、試行錯誤の状態です。現在、病院で行われている治療を示しました。

治療

1.全身異常素因の除去

2.ビタミン剤、脳代謝・循環改善剤および注射

3.鎮痙剤、精神安定剤、筋緊張緩和剤

4.耳管通気、神経ブロック

5.局所麻酔薬の注射、ホルモン剤の鼓室内投与

6.高圧酸素療法、混合ガス吸入療法

7.耳鳴りマスカー、自律神経訓練

8.電気刺激療法

9.東洋医学(漢方、針灸、ツボなど)

先ほど述べましたように、原因が不明なものや、慢性化してしまった場合は、いろいろな治療を試みて、1人1人の治療効果をみていくことにならざるをえません耳鳴りは自覚的な症状であるために、ここまでの話を聞いていただいただけでも、耳鳴りが小さくなった方もみえるかもしれません。 そのように、耳鳴りは体調や天気などに非常に影響を受けやすいといわれています。また、ストレスや疲労が耳鳴りの症状を増加させると考えられています。従って、ストレスをなるべく避け、耳鳴りの日常生活における支障度に応じて、1人1人に合った治療法をみつける必要があると考えています。今日の話で、耳鳴りに対する理解を少しでも深めていただけたらと思います。(文責 青木光広  ご質問・ご意見ありましたらaoki@cc.gifu-u.ac.jpまでどうぞご連絡ください)