「チューブ治療」の内容及び効果、危険性について

【質問】 小泉先生、はじめまして、こんばんは。インターネットで先生のことを知りました。6歳の息子が、3歳のころから医者に滲出性中耳炎と言われ、ここ4ヵ月前から鼓膜を切開して治療しています。両耳2回ずつ、計4回その治療を行いました。直後は聞こえがよいようなのですが、しばらくすると、また聞こえが悪くなるようです。しかしその治療に痛みが伴うため、聞こえづらいのに、聞こえるというそぶりをしています。鼓膜切開毎、主治医は薬を飲みながら様子を見ましょう、というのですが、あまり反復するため、今度はチューブを入れる治療をした方がいい、と主治医。耳にチューブを入れるなどとは、、、と驚いています。まだ詳しく教えてもらえず、親としてもはなはだ心配です。

 「チューブ治療」の内容及び効果、危険性について教えていただきたいと思います。

【回答】 私どものホームページをご覧くださいまして有り難うございます。いろいいろと皆様のお役に立つ記事を掲載して行きたいと思っておりますので、是非ご利用ください。また、ご希望がございましたら何なりとお聞かせ下さい。「こどもの中耳炎について」の執筆者は揖斐総合病院の耳鼻咽喉科部長小泉光君ですが、メールアドレスはWEB管理者の小生になっておりますので、ご質問には小生からお答え致します。

 「チューブを入れる治療」は、滲出性中耳炎の重要な処置の一つです。俗に「チュービング」正式には「鼓膜チューブ留置術」と言いますが、鼓膜切開をして、その切開孔にチューブを挿入して切開孔が塞がらないようにします。その孔を通して、空気が出入りするために、耳管からは不十分だった中耳腔の換気が十分に行われるように期待するものです。

 滲出性中耳炎は、耳管(耳とのどを繋いでいる管)から空気が十分に中耳腔に入らないことが原因で起こります。勿論、体質や扁桃肥大・アデノイド(鼻とのどの間−上咽頭−にある扁桃腺と同じリンパ組織)などで、耳管咽頭口が圧迫されて狭くなったり、アレルギーの関与などにより、耳管の通過障害が起こることが原因となっているものです。

 鼓膜を切開して、貯留液を除去しても、耳管から十分に空気がが入らないと、やがて又浸出液が溜まってくるという経過を繰り返します。世の中は何でもうまく行かないもので、もう少し開いていてほしい孔はすぐに塞がってしまい、早く閉じてほしい孔はなかなか塞がりません。とくに滲出性中耳炎の場合には、大人でも子供でも、十分に大きく切開しておいても2日目にはもう切開孔が塞がってしまう例が多いのです。

 「鼓膜チューブ留置術」には、いろいろな方法がありますが、一番確実なのは、両側につばのある形のチューブを、鼓膜の切開孔に挟み込む方法です。これは、大人でもちょっと大変です。とくにお子さんの場合は6歳なので、眠らせないと出来ないと思われます。病院の先生達は、扁桃腺とアデノイドの手術を全身麻酔で行なって、それと同時に鼓膜チューブ留置術を行なっていることが多いようです。

 鼓膜にチューブを入れることによって、耳管の換気能を補助し、中耳腔に十分な空気が入るようにして、中耳炎そのもの及び耳管の機能の改善をも計るのが、この治療の主目的です。十分効果は期待出来ます。更に、もう少し年齢が上がって自然に耳管の換気能が改善するまでの間、中耳炎が悪化して鼓膜癒着などの後遺症が起こらないように管理できるという効果もあります。

 デメリットとしては、いつも鼓膜に孔が開いている状態を人工的に作るわけですから−この孔はチューブをはずせば自然に塞がりますが−入浴時や水泳(潜水は不可ですが、耳栓を上手にすれば普通に泳ぐことは可能)などで、外耳道から水が入って感染を起こす危険があります。また、かぜを引いたときなどに、容易に中耳に感染が起こることも有り得ることです。

 更には、定期的に通院して、鼻の状態・耳管の状態・鼓膜の状態を管理することが大切ですが、これがなかなか守られません。耳漏が出たといって慌てて飛んで来られて、大変てこずることもしばしばです。