耳小骨の再建について教えて下さい

【質問】10才になる息子が先天性真珠腫の手術を受けましたが、既にアブミ骨の殆ど全てと、キヌタ骨の大半が真珠腫によって破壊されていることが判明しました。その時の手術では、真珠腫の摘出を行い、再発の恐れもあることから、伝音再建のための手術は半年から一年後に行うということになりました。

耳小骨の大半が消失してしまっているため、寸法が足りない分は、「ヒト(他人)の耳小骨(アルコール漬け)」を使うと医師から言われています。文献によりますと、「患者本人の耳の軟骨」を使って伝音再建する方法や、「セラミック人工耳小骨」を使う方法を採用している病院もありますが、それぞれの長所・短所はなんなのでしょうか?もし、メリットばかりで、リスクのない方法があれば、全ての医師がその方法を採用するはずで、3つもの方法があるからには、一長一短があるからだと思うのです。
本人の耳の軟骨」と「ヒト耳小骨」では、どの程度聴力回復に差があるのでしょうか?
ヒト耳小骨」は本当に安全なのでしょうか?ヤコブ病などの感染原因になるのではないかと心配です。
セラミック」は拒絶反応を起こし易いとも聞きますが、「ヒト耳小骨」はそんなことはないのでしょうか?
本人の歯を加工して耳小骨として使うことは出来ないのでしょうか?

【回答】仰るとおり、どれも一長一短があります。素材そのものの問題もありますが、手術創との関連も考慮しなければならない問題です。私自身はあまり専門でないので、第一線で活躍している専門医の意見を聞いてから、ご返事します。

(文責:渡辺耳鼻咽喉科 渡邉忠彦)

【専門医の意見】同種材料(ヒトの耳小骨)についてですが、一般の耳鼻科医は使用していない材料です。しかし、兵庫医大で行われているようで、報告があります。その資料からみるとホルマリン処理されていて、ホルムアルデヒド、エチレンオキサイドガス滅菌、凍結されているということです。その資料では適切な処理がされていれば細菌、virusなどの感染のおそれはないと書いてありますが、自分自身使用してないので不明です。

人工材料(セラミック)は使用している施設は多いです。しかし、一般に耳小骨再建には残存自家耳小骨または側頭骨骨片、軟骨(耳介または耳珠)を使用する施設が多いと思います。人工耳小骨の長所は形状がそれ用に製作してあるため、形態を整える必要がない。この患児の場合ではアブミ骨の上部構造が消失しているので、先の細いコルメラ(柱)を立てる必要があり、再建材料もこのような形態に整える必要があります。欠点は異物であることです。すなわち排泄されることがある。異物反応の少ない材料から出来ており、排泄防止に色々工夫をしておりますが、排泄される懸念はあります。異物をいれるということ、排泄される可能性が少しはあるという点が、他に使用材料が選択できる場合は使われない理由と思います。私も第一選択とはしていません。しかし、形状が安定しているという点が何よりも魅力です。

骨片もよく用いられる材料です。長所としては形成しやすいことが挙げられると思いますが、私は使用してないので印象は不明ですが、骨片を外耳道の再建に使用することは多く場合によっては萎縮したり、吸収されます。耳小骨に使用した場合のこの点については文献によりそうでないと意見もあり、意見がわかれています。

軟骨ですがこれも良く用います。私は特に好んで使用します。形成しやすく採取しやすい。欠点としては人工の材料ほどは形態は整わないので、アブミ骨につける部分に工夫が必要であったり、アブミ骨上部構造がないときには形態を慎重に作成する必要があります。また長期的にみるとこれも吸収されるという意見もありますが、安定しているという意見もあり、意見がわかれます。

いずれにせよ長所、短所があります。成績は実は大きく変わりません。軟骨でもなれていれば人工のものと聴力改善の差はありません。施設により使用頻度の差、慣れがありますので、その施設のよく使われているもので良いと思います。

最後に自分の歯を使用するのはこれまで聞いたことはありません。これも何らかの処理をしないと細菌を中耳に持ち込んではいけないでしょう。形態を整えても安定していないといけませんので、この点は削ったことがないので不明です。

(岐阜大学医学部助教授 耳鼻咽喉科学 水田啓介先生)