乳幼児の鼓膜損傷について

【質問】昨夜1030分ごろ15ヶ月の長男の耳掃除をしていたら耳掻きが耳の中に入ったまま、子供が動いて大きな声で泣き出しました。すぐに救急医療センターに電話して最寄の耳鼻科を紹介して頂き連れて行ったところ鼓膜が破れていて中に傷があると言われました。とりあえず化膿するとまずいので消毒をしてもらい飲み薬をもらったのですが心配で居てもたっても落ち着きません。私がしっかりと子供を支えていればこんなことにはならなかったのですが・・・・・・・・・
もしよかったら鼓膜のことについて教えてもらえないでしょうか。宜しく御願い致します。

【回答】鼓膜の穿孔の大きさによって予後が変わります。

穿孔が小さい場合は、感染を起こさなければ、そのままで自然に治癒する事が多いと思います。特に乳幼児の場合には再生力が旺盛ですから。

穿孔が非常に大きくて鼓膜全欠損のような時には、手術(鼓膜形成術)が必要になりますが、お子様の場合はまだ2歳以下ですので、若し仮にこのような状態であっても、感染を起こさないように上手に管理して、時期を待つのがベストチョイスであると思います。たとえ鼓膜に大きな穴が開いていても全く聞こえないわけではありませんし、反対側が普通に聞こえていますから言葉の発達には殆ど支障が有りませんので、手術操作がやり易い大きさになるまで、我慢して待つのがよいと思います。

穿孔が中等度の場合は、自然治癒は無理なので、ちょっと手助けが必要です。鼓膜の孔が閉じ易いように穿孔の大きさに合ったパッチを当てて穴を塞いでおきます。そうすると鼓膜穿孔の周囲からパッチを伝わって少しずつ上皮が延びて2週間ほどで穿孔が塞がり治癒します。この場合も感染を起こさないように厳重な注意が肝要です。シャンプーは禁忌です。風呂も耳に水が入らないように特に気をつけねばなりません。また点耳薬をさすなど余計な事はしてはなりません。却って感染を助長します。

外傷性鼓膜穿孔に関しては、以上のような事かと思います。
もう既にご覧になっているかと思いますが、
岐阜県耳鼻咽喉科医会ホームページ(
http://mediazone.tcp-net.ad.jp/gent/)の「とぴっくす」及び 私ども渡辺耳鼻咽喉科のホームページ(http://mediazone.tcp-net.ad.jp/gent/wjent/)の「何でも相談室」(内容は殆ど同じですが)にも参考になる記事が有ります。

【質問】さっそくのmail有り難う御座いました。mailを見てほんの少しですが気が楽になりました。今日の午前中にも病院に行ったのですが、「ほぼ出血も止まり2週間位で鼓膜は治るでしょう。」と言われました。

【回答】あまり大したことも無さそうで一安心ですね。感染を起こさないように厳重に気をつけて下さい。

【質問】ただ先生が言われてあったのが「鼓膜の奥の骨?に少し傷があるかもしれないので将来難聴になるかもしれない」と言われました。

【回答】耳小骨連鎖のことを言われたのでしょうね。
ご存知のように、鼓膜は外(外耳道の方)に向かって開いたハラボーラのようなもので、そのパラボーラを吊っているのが槌骨で、次いで砧骨がこの槌骨と組み合わさって梃子を形成して、内耳窓に嵌っている鐙骨に繋がっております。こうして鼓膜が受けた空気振動が内耳液の振動に変換されて行きます。これを中耳伝音機構と言いますが、このメカニズムのゲインが約30dB有ると言われております。鼓膜の後上部に外傷を受けた場合には、砧骨と鐙骨の連鎖が切れる危険があります。多分主治医はこのことを話されたのだと思います。お子さんの鼓膜損傷の位置は後上部ですか?

【質問】私自身心配な事は、「耳が聞こえなくなるのではないか」「言葉が上手く話せないのではないか」ということが一番気になります。

【回答】前にも申しましたが、特別な事(感染がひどくなり中耳炎から内耳炎を誘発するといったような事)がない限り、鼓膜外傷で耳が全く聞こえなくなるということはありません。最悪の場合でも30dB程度の難聴(軽度難聴)です。もし仮に全く聞こえなくなったとしても、反対側が普通に聞こえているので、言葉の発達には殆ど影響がありません。

【質問】鼓膜が治った時点で一度大学病院などで検査をしたほうがいいのではないかと妻と話をしてます。先生はどう思われますか。

【回答】焦らない事です。それよりも今が大事ですので、感染を起こさないように慎重に管理する事の方が大切です。